個人事業主の事業承継相談を受けて感じること

私はこれまで、個人事業主の方から事業承継のご相談を数多く受けてきました。

事業の主は本人だけど、これからメインで動いていくのは専従者の息子さん。

あるいは既にメインで動いているのは専従者の息子さんとなっているケースもあります。

個人事業主の事業承継について考える場合には、事業自体の承継のみならず、資産の承継も当然考慮しなければなりません。

法人の場合には基本的に株式の承継で資産承継は終わりますが、個人の場合にはそうはいきません。

店舗兼住宅というケースも多いのが個人事業主です。

そうなると、家屋や土地も承継しないといけませんよね。

そこで不安になってくるのが税金というわけです。

でも事業承継は税金を考える前にやるべきことがことがあります。

目次

後継者の育成が最重要

個人事業に限らず、法人の場合もそうですが、事業承継で一番難しいのは事業自体の承継です。

引き継ぐ事業を後継者自身で経営できるだけの力をつけることです。

個人事業の場合には、経営者自身の個人的な強みを生かして経営されており、その強みに依存した経営になっているケースが多い印象を受けます。

後継者もその強みを引き継いでいく必要がでてきます。

今いる顧客が離れていかないように、経営者の強みを後継者に引き継ぐことが大事となります。

新規顧客の獲得はその後ですよね。

そうなると、経営者の強みを知り、その強みを吸収する期間が必要です。

一朝一夕でできる程甘くありません。

その育成に数年は要すると思いますね。

個人事業をやられている経営者は後継者が親族となるケースが多いです。

親族外の場合には事業譲渡となるので、後継者育成という問題は生じません。

しかし、親族内承継の場合には後継者に強みを引き継ぐよう計画的に育成していく必要があります。

何年という基準はありませんが、後継者が決まったら育成開始と思っても良いと思います。

経営者が高齢となった、大病をした、あるいはもういつ亡くなってもおかしくない。

そんな状況で個人事業主の方から事業承継のご相談を受けるケースが多いです。

つまり、後継者の育成期間があまりないというケースです。

幸いにも後継者が専従者として従事している場合には経営者の仕事ぶりを間近で見ているので、強みを知っていることが多いです。

その強みを後継者本人が吸収しよと努力しているので、万が一のことがあっても事業を引き継げる可能性は高まります。

しかし、専従者にもなっておらず、いきなり親族内承継をご希望された場合には、後継者の覚悟が頼りとなります。

新型コロナウイルスの影響でテレワークが当たり前となり始め、今まで地元に戻って家業を継ぐなんて考えてもいなかった息子娘世代が、家業を継いでみようかな、なんて考えがよぎったりもしているかもしれません。

そんなときに、いきなり事業を承継しようと思っても現経営者の考え方ややり方に納得がいかない。

個人事業主は良い意味で職人気質な方が多い印象を受けます。

だからこそお客様から選ばれているのだろうと感じます。

そのやり方を気に入らないと反発し、家業に入っても結局は上手くいかず、後継者が承継できずに(正確には承継を諦めて)廃業となってしまうケースもあります。

そうならないように、生前から計画的に後継者を育成していくことが大事だと思います。

後継者はあくまでも後から入った者であることを肝に銘じ、現経営者の考え方ややり方を素直に一度受け入れる覚悟が必要です。

ご家族である故に言いやすかったり、納得がいかなかったりもします。

でもそこは我慢です。

刷新を加えるのはその後の話です。

そういう意味でも後継者の覚悟が大事になりますね。

不動産の承継は後回しでも良い

個人事業主の事業承継でネックとなるのが、店舗兼住宅や工場などの不動産です。

個人事業主の場合には、店舗兼住宅のケースが非常に多い印象を受けます。

その店舗兼住宅を承継しないと事業が成り立たないと思われている方が多いです。

しかもそれには税金がかかるんだろうな、というのは皆さんご存じのようです。

この不動産の承継方法には「売買」「贈与」「相続」があります。

この3つの方法がある旨をお伝えすると、決まって返ってくる質問は「どの方法が一番税金が安いですか」です。

8割くらいの方からはこの質問を頂きます。

これは立地や家屋の年数などによる不動産の評価額とそれぞれの税率によりどの方法が安くなるかは異なります。

でも多くのケースは、非課税枠内で移転が可能だったり、あるいは承継は相続が発生するまで実行しなくても良いケースが多いです。

つまり、贈与か相続に落ち着きます。

贈与で課税が発生する場合には、無理に今承継する必要はなく、「使用貸借」という方法で現経営者から後継者へ無料で貸し付ける方法も可能です。

何も税金を払ってまで今すぐ承継する必要はないのです。

もちろん贈与した場合と相続した場合の税金面での比較は必要となります。

相続となれば小規模宅地の特例を活用すれば無税での承継が可能となる場合もあります。

検討したうえでの「使用貸借」であることは忘れないでくださいね。

その他の売掛債権や棚卸資産などの事業により発生している資産は承継しないと事業に滞りが生じます。

これらの資産は事業の承継とともに後継者へ承継する必要があります。

しかし、事業では買掛金や借入金などの債務も一緒に承継しますので、実際に承継する際にはこの資産から負債を控除した残額となります。

この残額を贈与または譲渡する必要がでてきます。

そこで税率の登場です。

譲渡なら所得税と住民税、贈与なら贈与税がかかります。

これらの税率を比べてどちらが安いかという話になります。

譲渡の場合には総合譲渡となり現経営者に納税義務が、贈与の場合には後継者に納税義務がそれぞれ発生します。

譲渡の場合には後継者から現経営者へ譲渡代金を支払う必要もでてきます。

つまり基本的に資金がないと譲渡はできません。

一般的には親族内の承継では贈与に落ち着くケースが多くなります。

この資産から負債を控除した残額があまりにも大きい場合には検討が必要となりますね。

不動産や車両などの減価償却資産であれば個人版事業承継税制の活用も検討しますが、前述したとおり不動産は使用貸借とすれば事業に支障はありません。

それ以外の資産負債の承継が問題となります。

事業用資産の承継についても、計画的に進める必要があるということですね。

後継者以外の相続人への配慮を忘れずに

個人事業主の事業承継で忘れてはいけないことがあります。

それは、後継者以外の相続人への配慮です。

個人事業主の場合には、店舗兼住宅とされているケースが多いのは前述しました。

すぐすぐ承継すると税金がかかるので使用貸借を活用するとします。

すると、現経営者に相続が発生した場合には、店舗兼住宅は後継者が相続することとなります。

事業に関わる財産は後継者が相続するとなるでしょう。

そうなった場合、他の相続人へ残す財産はありますでしょうか。

税金がかかるかからないの話の前に、後継者以外の相続人に何も残せないとなると、場合によっては相続人間で不公平感が生じて後々に「争族」となってしまうケースもあります。

個人事業主の場合には個人財産がほぼ事業用財産というケースも多いです。

するとほとんどの財産を後継者が相続することになります。

他の相続人が納得できれば問題ありませんが、不仲だったりすると遺留分の侵害請求をされてしまったり、最悪の場合には店舗兼住宅を売却せざるを得ない状況にもなりかねません。

これではせっかく事業を承継したのに、使用貸借していた不動産を相続により承継するとなった時に店舗がなくなるという最悪のケースも発生しかねません。

そうならないように、個人事業主の事業承継を検討される場合には、後継者以外の相続人への配慮を欠いてはいけません。

他の相続人へも事業承継の話を生前からきちんとしておく必要があります。

そして可能な限り他の相続人へも財産が残るように検討を重ねる必要があります。

そのうえで遺留分を侵害しないような遺言書を作成しておくことが大事となります。

事業承継計画と相続対策はセットで考える必要がありますね。

まとめ

個人事業主の事業承継相談を受けると、それぞれ問題点が出てきます。

そしてその問題点は千差万別です。

家族構成や事業の実態、後継者の気持ちや社会環境も影響を与えます。

顧問税理士に事業承継の相談をすると、税金面しか考慮してくれないケースが多々あります。

法人個人に限らず、事業承継を考える場合には、税金より先に検討しなければならないことが山ほどあります。

税理士らしくないですが、税金は最後に検討すれば良い事項だと私は思っています。

   

【編集後記】
今週も順調に毎朝4時起床。
今日は3時50分起床。
早朝から仕事をすると捗ります。
これからも4時起き生活を続けたいなと思います。

【家族日記】
子供たちはサンタさんへ手紙を書いていました。
息子くんはまだ書けないので娘ちゃん達が代わりに書いてあげていました。
「なんでもいいです。てきとうにください。」
娘ちゃん達、自分たちのは欲しいものをちゃんと書いている。
息子くんの欲しいものが雑過ぎる…。
息子くんは何もわからずに「ありがとう」て言ってます。
めんこいです。

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