小規模事業者においては、消費税の計算において簡易課税を適用されている方が多い印象を受けます。
特に商工会議所などで確定申告をされている方は簡易課税の割合が高い印象です。
簡易課税は原則課税に比べると比較的簡便的な計算方法ですので、煩雑さ故に簡易課税を選択されている方もいらっしゃるかと思います。
原則的な方法と簡易課税をきちんと比較し、簡易課税が有利となる故に簡易課税を選択されている小規模事業者ももちろんいらっしゃいます。
有利故に簡易課税を選択して消費税の計算をされてきた方が、来年あるいは翌事業年度に建物など多額の設備投資の予定がある場合には、簡易課税選択不適用届出書の提出を検討されるかと思います。
これまでの簡易課税では不利となる可能性があるからですよね。
しかし、ここで本則が有利だから提出しなきゃとなり、すぐに簡易課税制度選択不適用届出書を提出してしまわないようにご注意ください。
提出しなくても良いケース、あるいは提出しない方が良いケースもあります。
提出前に検討するようにしましょう。
基準期間の課税売上高が5,000万円を超えている場合には届出書の提出は不要
簡易課税を適用できる大前提は基準期間の課税売上が5,000万円以下であること。
つまり、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えている場合には、たとえ簡易課税制度選択届出書を提出していても本則課税によって計算しないといけません。
ここで何が言いたいのか。
翌期に建物など多額の設備投資を予定しているので本則課税に戻したいと思ったとしますね。
簡易課税のままですと設備投資にかかる消費税を控除することができないため、消費税の還付を受けることができません。
だから設備投資を翌期に控えている場合には、今期中に簡易課税制度選択不適用届出書を提出しなきゃって考えますよね。
ここまでは全く問題ない。
むしろ正しい。
ただし、ここでひとつ確認しなければならないことがあります。
翌課税期間にかかる基準期間の課税売上高がいくらかということです。
翌課税期間の基準期間、つまりは前期の課税売上高です。
基準期間は個人であれば2年前、法人であれば前々事業年度を指します。
翌期の2年前または前々事業年度は、つまり今期からみると前年または前事業年度を指します。
前期の課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度選択不適用届出書を今期に提出しないと翌期は簡易課税を適用しないといけなくなります。
しかし、もし前期の課税売上高がたまたま5,000万円を超えていた場合、翌期はそもそも簡易課税を適用することができません。
それなのに、あわてて簡易課税制度選択不適用届出書を提出する必要はありませんよね。
だって提出しなくても本則課税なんですから。
じゃぁ提出してもしなくても一緒か。
ここがひとつのポイントで、この簡易課税の選択にかかる届出書には提出制限が設けられています。
仮に今期に簡易課税制度選択不適用届出書を提出した場合、一定期間は簡易課税に戻せなくなります。
つまり、一度簡易課税制度選択不適用届出書を提出すると、再び簡易課税を選択したいと思っても、自由に選択はできなくなるということです。
簡易課税の方が有利であり、今後も簡易課税の適用を受けたい。
たまたま翌期に設備投資があるので翌期だけ本則課税で計算したい場合にまで、簡易課税制度選択不適用届出書を提出する必要はないのです。
両者の違いを以下でみていきましょうね。
簡易課税制度選択不適用届出書を提出した場合の取り扱い
これまでずっと簡易課税の適用を受けていた事業者で、翌期の基準期間の課税売上高が5,000万円を超えているのもかかわらず、設備投資のために簡易課税制度選択不適用届出書を提出してしまったと仮定しましょう。
その場合、翌期は当然ながら本則課税で計算をすることになります。
そして消費税の還付を受けるなり、納税額が減額となったり、当初の目的を果たせるでしょう。
ここまでは予定通りですね。
では、その翌期、つまり設備投資をした次の期においては、また簡易課税を選択して計算したいとなった場合には、簡易課税制度選択届出書を提出すれば良いでしょうか。
ここが制限の問題となります。
消費税法では、本則課税の期間に高額特定資産と呼ばれる1,000万円以上の設備投資をした場合には、高額特定資産を取得した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までは、簡易課税制度選択届出書を提出することができないのです。
長過ぎて、「は?」ですよね。
簡単にざっくり言います。
建物などの高額な設備投資をしたら、3年間は本則課税で計算してねってことです。
つまり、簡易課税を選択できませんよってことですね。
簡易課税の方が有利なのでこれまでずっと簡易課税を選択してきた事業者が、翌期に設備投資があるので簡易課税制度選択不適用届出書を提出してしまった。
すると、翌期はこの制限の対象になります。
3年間は本則で計算しないといけなくなります。
仮に基準期間の課税売上高が5,000万円以下であっても本則で計算しないといけません。
簡易課税の方が有利な事業者の場合には、非常にもったいないですよね。
簡易課税制度選択不適用届出書を提出しなかった場合の取り扱い
では、ずっと簡易課税を選択してきた事業者が、翌期の基準期間つまり前期の課税売上高が5,000万円を超えていた場合で、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しなかった場合にはどうなるでしょうか。
簡易課税は基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合に適用を受けられることは前述しました。
仮に課税売上高が前期5,000万円超、今期5,000万円以下、翌期5,000万円以下だったとしましょう。
この場合、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しなくても、設備投資をする期である翌期は本則課税となります。
そして、その次の期は簡易課税、その次の期も簡易課税となります。
簡易課税制度選択届出書の効力は、提出した翌課税期間から、簡易課税制度選択不適用届出書の提出がある課税期間までずーっと生きるんですね。
つまり、簡易課税制度選択不適用届出書を提出しない限り、基準期間の課税売上高が5,000万円以下か5,000万円超かによって原則と簡易が決まることになります。
以前に簡易課税制度選択届出書を提出していてずっと簡易課税の適用を受けていた。
たまたま設備投資することになった期である翌期の基準期間の課税売上高が、これまたたまたま5,000万円を超えていた場合、これは本当に超ラッキーなんです。
反対に言うと、事業として簡易課税が有利な事業者の場合、設備投資をするタイミングとして課税売上高が5,000万円を超えた翌々期が有力候補にもなるってことですね。
設備投資の課税期間は本則課税で計算して消費税の還付を受け、その次の期からまた簡易課税に戻ることも基準期間の課税売上高によっては可能になります。
この場合には、高額特定資産を取得した場合の簡易課税適用の縛りを受けず、基準期間の課税売上高によって本則か簡易かが決まります。
簡易課税が有利な事業者は、きちんと検討してから届出書を提出するようにしましょう。
まとめ
簡易課税を選択してきた事業者が設備投資をする場合の届出書について考えてみました。
簡易課税制度選択届出書および簡易課税制度選択不適用届出書には、提出時期の制限が設けられています。
さらに設備投資が絡むと制限期間が延長されるという特徴があります。
届出書は適用を受ける課税期間の直前の課税期間までに提出しないといけません。
つまり、翌期から適用を受けるには、今期末までに提出しないといけないんですね。
だから予測がとっても重要になります。
早め早めの検討が必要となるので、注意が必要ですね。
【編集後記】
6月末から7月上旬は源泉所得税の納期特例がピーク。
納付方法も納付書のお客様がまだ多いので、便利なダイレクト納付やクレジットカード納付をオススメしたいなと思っています。
いちいち銀行行くのも面倒ですし、銀行窓口での待ち時間って本当に無駄だなと思っています。
私はすべてダイレクト納付か振替納税なので、最近銀行に行ってませんね。
それでも全く問題ないので、お客様にもオススメしていこうと思っています。
【家族日記】
今週は息子のRSウイルス感染によりちょっとドタバタしてました。
熱も40度を超え、ぐったりした息子を見ると可哀想で可哀想で。
幼稚園や小学校はどうしても感染しやすいですよね。
熱は下がったのでだいぶ元気になり、あとは咳のみです。
完治まではもう少しかかるかなと思うので、無理をさせないようにしようと思います。